2017-02

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トランプを生んだもう一つのアメリカ

   トランプを生んだもうひとつのアメリカ
         自治体政策研究所理事・高橋 悟

  
 2016年のアメリカ大統領選挙を「『狂人』対『犯罪者』の戦い」と評したのは、レーガン元大統領のスピーチライターを務めたペギー・ヌーナン氏。また、民主党大統領候補の座をヒラリー・クリントン氏と最後まで争ったバーニー・サンダース氏は、トランプについて「私の生涯で、主要政党から浮上した最悪の候補者。こいつはこの国にとって大きな災難」とまで言い切った。
 ところがである。大統領選挙において勝利の女神が微笑んだのは、ドナルド・トランプ氏であった。世界が愕然した2016年11月9日。
 何故、ヒラリーは破れトランプは勝利したのか。多くの識者がさまざまな分析・解説を試みているが、今にいたるも「何故?」という疑問符は消えない。

 2017年1月20日、トランプは正式に第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。多くのメディアは、その就任セレモニーへの参加者がオバマ前大統領に比べ格段に少なかったことや、世界各地で反トランプのデモが起きたことを伝えた。
 さらに、トランプ新大統領への好感度が40%と過去40年間で最低であることや、支持率が45%と極めて低いことを伝えた。
 しかし・・・私は考える。
 むしろ40%ものアメリカ国民がトランプに好感を持ち、45%のアメリカ国民がトランプを支持している事実こそ驚くべきことではないかと。
 本選挙でのトランプの得票は、6、297万票に及び、ヒラリー・クリントンに280万票余り少ないとはいえ、過去の共和党の大統領候補と比較すると、2004年のブッシュ(子)、2008年のマケイン、2012年のロムニーを、いずれも上回っているのである。

 トランプは、選挙運動期間中、人種、宗教、性別などについて差別的発言を繰り返した。彼が「暴言王」と言われる所以のひとつはここにある。被差別者や少数者への寛容さが「政治的正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)として求められる現代において、これは命取りである、と、多くの識者は考えた。人種差別、女性差別を公言する人物が、まさか大統領になるはずがないと。
 しかし・・・私は考える。
 むしろ、その数々の暴言にこそ、トランプを大統領にした秘密があるのではないかと。

 アメリカは、ふたつの顔を持っている。ひとつは進歩的で開放的でリベラルなアメリカ。オバマ前大統領に代表されるアメリカだ。もう1つは、その反対のアメリカ。保守的で閉鎖的で差別を容認するアメリカである。
 私たちは、アメリカというと、東海岸のニューヨークや西海岸のサンフランシスコなど、自由で開放的な大都市を思い浮かべる。しかしアメリカは広い。ディープサウスとよばれる南部では、今なお根強い人種的偏見が存在している。また南部に限らず白人至上主義的な考え方を持つ人も多い。これは経済だけでは説明できない根深さ、奥深さを持つ。
 トランプを大統領選で勝利させたのは他でもない、このもうひとつのアメリカである。差別と偏見に満ちたもうひとつのアメリカが、トランプの暴言に共鳴、共感し、彼を大統領に押し上げた。これが今回の大統領選挙の実相ではないだろうか。

 今後、憂慮すべきは、合衆国最高裁判所が1950年代から積み重ねてきた人種差別撤廃等の進歩的な司法判断がトランプ政権のもとで覆えることである。最高裁判所判事の指名は大統領が行うこととなっており、今後、トランプが保守的な判事を指名することが予想されるからだ。これまで「政治的正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)の言わば旗振り役であったアメリカの変節は世界に大きな影響を与えることとなろう。アメリカ国内はもとより世界中でヘイト・クライム(人種的な憎しみを動機とする犯罪や事件)が増加するに違いない。
 もう1つのアメリカが開けたトランプという名のパンドラの箱。今、世界は、その箱から出てくる「恐怖」の前に戦々恐々としている。
 神話では最後に「希望」が残るはずなのだが・・・・。

[勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし](野村克也)

                      
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